研究や論文をめぐる「評価指標」というと、論文数や被引用数がまず思い浮かぶのではないでしょうか。その他にも、異なる観点から異なる指標が様々に考え出されています。
今回は、どの論文から転載や引用するかを判断する際の目安としてご活用いただけるよう、いくつかの評価指標の特徴や捉え方、調べ方をご紹介します。
1.論文の評価指数
a. 被引用数
b. altmetrics(オルトメトリクス)
2. 研究者の評価指標 h-index(h指数/h指標)
3.雑誌の評価指標 Impact Factor(インパクトファクター IF)
a. 被引用数
論文の被引用数とは、ある論文がどれだけ他の論文に引用されているかということです。“被引用数が大きいすなわち良い論文である”とは言い切れませんが、“引用される回数が多いほど注目されていて、信用度が高い論文である”ということは言えるでしょう。
被引用数について留意すべき点はいくつかあります。まず、引用されるまでにはタイムラグがあるため、発表されたばかりの論文の被引用数は必然的に少なくなります。
また、各分野で研究スピードや論文発表数、引用の慣習の違いから引用の度合いも異なるため、分野を隔てて被引用数でもって論文を単純に比較することは難しいと言えます。
引用・被引用関係を調べられるのは各データベースや検索サイトの収録コンテンツの範囲内に限られるため、同じ論文でもデータベース等よって被引用数が違ってくることも頭の片隅に入れておくと良いかもしれません。
Tips
ちなみに、論文の被引用回数を用いて、研究機関の評価を行うことも可能です。高被引用論文の本数をもとに、2022年の日本の研究機関の影響力ランキングを出しています。
2022年4月18日 Clarivate AnalyticsJapan社
b. altmetrics(オルトメトリクス)
論文評価の指標であるaltmetricsは、被引用数に基づいて算出する評価指標とは異なり、社会的な影響度を測る指標となります。「社会的な影響度」というのは「論文の注目度」であり、論文について学術的なコミュニティではなく、FacebookやTwitter、YouTubeなどのソーシャルメディア、Web上のニュースサイトやブログでのコメントや、閲覧回数、ダウンロード回数といった反応を集め、割り出されます。
即時性が大きな利点であり、社会的な話題性を知るには有効である一方、一般受けしやすい論文の反響から商業的な要素が高まる、反響を寄せている人々の属性や目的・動機は明らかにできない、各SNS等サイトスコアの重みづけの根拠が不明確といった懸念点があります。また、SNS発信のデータは操作が容易であるということも留意する必要がありそうです。
いろいろな企業や団体がaltmetricsを提供するサービスを展開していますが、最も主流なのはAltmetric.comといえるでしょう。
2.研究者の評価指標 h-index(h指数/h指標)
h-indexは研究者個人の評価指標の一つです。「発表した論文のうち、被引用数がh回以上ある論文がh本以上あるということを満たす数値hがその研究者のh-index」となります。たとえば、10回以上引用されている論文が10本以上ある場合、h-indexの数値は「10」となります。
少しややこしい説明になってしまったかもしれませんが、要はこの数値が高くなるほど研究分野への貢献度が高いとして、研究者が評価されます。生命科学分野ではh-index25〜30が優れた業績の目安とされるようです。
h-indexは発表した論文の量(発表数)と質(被引用数)をバランスよく評価できるといえますが、被引用数の絶対数を把握することは現実的に不可能である点、研究期間の長さによって必然的に数値が上がってしまう=若手は不利という点を考慮した方が良いでしょう。また、IFと同様に分野を隔てて単純に数値を比較することはできません。
3.雑誌の評価指標 Impact Factor
Impact Factor(インパクトファクター、IF)とは、Clarivate Analytics社の引用・被引用情報データベースJournal Citation Reports(JCR)で毎年提供される、学術雑誌の影響度(インパクト)を測る=学術雑誌のランク付けをする指標です。
ジャーナル単位の影響度を測るための指標であり、個々の論文や研究者、研究機関の質を保証するための指標ではありません。直前2年間のデータで算出され、毎年1回(6~7月)に更新されるので、最新のIFを確認することが重要です。
IFの評価対象は、Web of Scienceという世界最大級の学術オンラインデータベースに収録されているジャーナルに限られています。医学・生物学文献を扱うPubMedなどのデータベースはサポートしていません。(PubMed上でIFを表示する方法は、こちらのコラムを参照ください)
論文転載や引用の際にどちらかの判断に迷った場合、IFの高い雑誌に掲載された論文を選んだり、あまりにもIFが低い雑誌に掲載されている論文を引用・転載する際は注意(なるべく避ける)したりすると良いでしょう。
目安となる数字ですが、生命科学分野では5前後で信頼性のあるジャーナルと言えますし、専門領域を絞り込んだ雑誌ではIF5前後で高い評価と考えてもよいでしょう。10前後になると一流雑誌、20以上のジャーナル(Nature、Science、 Cellなど)となるとほんの一握りの研究者が発表できるジャーナルと言えるようです。
IFについては、以下の点に留意するべきでしょう。
①引用の文脈は把握できないため、内容や質が分からない(ネガティブな引用の可能性)
②トレンドの研究テーマが掲載されているとIFが高くなりやすい
③小規模な学術雑誌や専門領域を絞り込んでいる雑誌のIFは、複数年のIFを確認した方が良い
④即時性がない
⑤異分野間では単純に比較できない
以上、3種類の評価指標について解説しました。
ある指標だけをもって判断するのではなく、複合的に用いることが大事といえます。
調べ方でご紹介した有料のデータベースを利用できる大学や研究機関に所属していない場合、また所属先が契約していない場合、個人でデータベースを利用しようとすると契約を結び利用料を支払わなければなりません。
そのような場合、現地に行くことができる方に限りますが国立国会図書館東京本館で、今回ご紹介したWeb of Scienceのみならず様々なデータベースを利用することが可能です。
以上、転載や引用をする論文を選ぶ際の判断材料として、ご参考になれば幸いです。